働き方改革を機に令和時代の医療文化をつくる

 すべての問題は、誰かが“果たすべき役割”を担っていないから発生している--。私が問題点を確認するときの視点です。この視点から(医師の)働き方改革について眺めてみると、役割を果たしていないのは「全員」ということになりそうです。

 まずは「国」と「自治体」です。過重労働の要因の一つは、医療機関および病床が分散していることで、マンパワーも分散しています。人口当たりの病床数が欧米諸国の約2倍であるため、結果として病床当たりのマンパワーが2分の1以下になっています。この状況は何十年も変わっていません。地域医療構想により、各地で病床再編(例:3つある急性期病院を1つの急性期と2つの地域包括ケア病棟or回復期病棟に再編)が実施される見通しですが、本格的に病床再編が進まなければ、過重労働の根絶は難しいでしょう。

 次は「経営者」です。年間就業日数が300日以上の労働者の割合が全職種では7.6%であるのに対し、医師は35.0%と、3人に1人が年間300日以上も働いています。日本の医師の「3.6%が自殺や死を毎週または毎日考える」「6.5%が抑うつ中等度以上」という危機的な状況です。少し前になりますが、2011年5月28日の中医協で二号委員から示された「わが国の医療についての基本資料」の中には、日本の医師が欧米医師の1.5倍程度働いていることが示されており、60歳代になっても他国の働き盛りと同程度の労働をしている異常性が指摘されていました。前述のように、医療提供体制の面では国の責任が重いと思いますが、勤務医の外来負担の重さや多職種連携、タスクシフティングの遅れは、経営陣にも一部責任があると言えるでしょう。経営者に限らず、医師以外の職種も「医師から積極的に仕事を奪わなかった」という見方もできます。これは各職種の業務が「医師の指示の下に」行うという“呪縛”が足かせになっていますが、チーム医療においては「多職種の提案に基づいて医師が…」というボトムアップ型に改める必要がありそうです。

最後は「患者」(国民)です。上手な医療のかかり方を広めるための懇談会は、「『いのちをまもり、医療をまもる』国民プロジェクト宣言」として、以下の5つの方策を掲げています。
① 患者・家族の不安を解消する取組を最優先で実施すること
② 医療の現場が危機である現状を国民に広く共有すること
③ 緊急時の相談電話やサイトを導入・周知・活用すること
④ 信頼できる医療情報を見やすくまとめて提供すること
⑤ チーム医療を徹底し、患者・家族の相談体制を確立すること

 ここには行政側や医療機関側が対応すべき内容もありますが、最終的には一般市民が、医師をはじめとする医療人は限られたリソースであり、無駄遣いをしてはいけないという認識を持たなければ、“診てもらえない患者”が5年後に社会問題になる恐れがあります。
新元号の「令和」には「人々が美しく心を寄せ合う中で文化が生まれ育つ」という意味と思いが込められているそうです。行政、医療機関、国民が医療について心を寄せ合う中で、新しい医療提供体制や受診行動の文化が生まれ育つのだと思います。

その第一歩を踏み出すのは、このサイトを読んでいただいている先生であってほしいと思います。

この記事の著者

川越満

川越満

1970年、神奈川県横浜市生まれ。

1994年米国大学日本校を卒業後、製薬企業向けのコンサルティングを主業務とするユート・ブレーンに所属。

コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備える「コンサナリスト」(商標登録済)として、講演活動、書籍の出版プロデュースなどで活躍中。

医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。

現在は「業界入門書の制作」と「医師とMRの相互理解促進」を使命として、役立つコンテンツを生み出しつづけている。著作は30冊以上。肩書の「コンサナリスト」とライフワークの「セルフ・ブランディング」を10年前の2004年に商標登録している。

URL:https://consunalist.jp/

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