手放すことの大切さ

 もともと医療の世界では、経営的な部分に関する情報公開が進んできました。各医療機関が届け出ている診療報酬の「施設基準」は以前から公開されており、県庁に行けば誰でも閲覧できました。それが、数年前からはネットで誰もが無料でダウンロードできるようになりました。ネットで公開される前は、全国の病院の施設基準情報が調査会社を通じて数百万単位で売買されていました。施設基準情報は、医療機関をターゲットとする企業にとっては、重要なマーケティング情報となっていたからです。

 さらに、2008年度からは医療機能情報提供制度がスタートしました。患者さんによる医療機関の適切な選択の支援を目的とした制度であり、届出項目は、名称や住所、診療科目といった基本情報をはじめ、専門医の数や看護配置、医療連携体制、死亡率、患者数など、50項目以上にも及びます。届け出られた情報は、各都道府県のサイトから見ることが可能です。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/teikyouseido/

 ここまでの情報公開の制度は、病院や診療所が届け出た情報を、患者さんの医療機関選択に役立つように提供されてきました。しかし、2014年10月からスタートした第6次医療法改正に伴う病床機能報告制度の創設は、病院を丸裸に近い状態にするもので、従来の情報公開よりも医療機関側の緊張感がまったく異なるようです。

 現に、ある急性期病院の事務部長は、「DPC、レセプトで治療内容を取られ、病床機能報告制度で病院機能を病棟単位で国に把握されるようになった。稼働率が低い“休眠病床”などは要注意で、取り上げられないためにマンパワーを7:1から10:1など薄く配置する病院も出てくるのではないか」と、病床再編が進む可能性を指摘しています。

 まさに、病床機能報告制度は、地域医療構想を実現するための病床再編をうながす制度の一つと言えそうです。都道府県ごとに、比較的数の多い「高度急性期」と「急性期」病床を減らし、全国的に不足している「回復期」にシフトしてもらい、さらに在宅医療に参画する医師・看護師・薬剤師などを増やさなければ、がん患者や認知症患者が増える超高齢社会を乗り切ることは難しくなります。

 しかし、取材したある病院の医師は「うちの院長は絶対に急性期病床を○○○床より下回ることは許さない。絶対に譲れないハードルを決めているようだ」と話していました。このようなプライドが、病院経営のかじ取りを誤ることにつながり、地域全体の病床再編の遅れにつながりかねません。もちろん、患者さんのQOLなどにも影響するでしょう。

 これからの経営に必要なことは、環境変化に合わせて“手放すこと”だと思います。急性期病床が半分になっても、これまで以上に地域医療に貢献できることのほうが重要なのではないでしょうか。

手放すことで、このコラムをお読みいただいている先生の施設の成長が、加速することを願っています。

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この記事の著者

川越満

川越満

1970年、神奈川県横浜市生まれ。

1994年米国大学日本校を卒業後、製薬企業向けのコンサルティングを主業務とするユート・ブレーンに所属。

コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備える「コンサナリスト」(商標登録済)として、講演活動、書籍の出版プロデュースなどで活躍中。

医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。

現在は「業界入門書の制作」と「医師とMRの相互理解促進」を使命として、役立つコンテンツを生み出しつづけている。著作は30冊以上。肩書の「コンサナリスト」とライフワークの「セルフ・ブランディング」を10年前の2004年に商標登録している。

URL:https://consunalist.jp/

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