競争と共創

 地域包括ケアシステム、地域医療構想を円滑に進める手段として、国は地域医療連携推進法人制度(仮称)の創設を目指しています。

 厚生労働省は、複数の病院(医療法人等)を統括し、一体的な経営を行うことにより、経営効率の向上を図るとともに、地域医療・地域包括ケアの充実を推進し、地域医療構想を達成するための一つの選択肢とするとともに、地方創生につなげるとしており、▽患者・要介護者情報の一元化▽人材教育、キャリアパスの構築▽医療機器の共同利用▽退院支援・退院調整の円滑化――などのメリットを挙げています。

 厚生労働省の説明資料には、数多くの医療機関等とアライアンスを組んで世界的な医療・研究機関となった「メイヨー・クリニック」の紹介がされており、メイヨー・クリニックのようなホールディングカンパニー型の大規模医療法人をつくりたい意向がうかがえます。

 しかし、日本には地域医療連携推進法人制度は定着しないのではないか?という声もあります。

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の松山幸弘氏(内閣府規制改革会議健康・医療ワーキング・グループ専門委員)は、2015年3月4日に都内で開催されたユート・ブレーンセミナーで講演し、「地域医療連携推進法人をつくって医療法人を統合しても、世界的な臨床研究と教育を行うメイヨー・クリニックにはならないし、そもそも各オーナーが『一緒になりたい』と思うわけがない」と語り、新制度が絵に描いた餅になることを危惧しました。

 松山氏は「わが国には、持ち分あり医療法人が形成するグループが既に多数存在しており、これらにホールディングカンパニー機能を付与しても現状追認にすぎず、構造改革にならない」と指摘し、今回の法人改革をしなくても、政策目的を達成するための方法として、以下の3点を提示しました。

 (1)国立大学附属病院、国公立病院を地域統合して社会医療法人にする
 (2)社会医療法人と社会福祉法人の合併を認める
 (3)上記の事業体に追加財源獲得手段として株式子会社を認める

松山氏の各種提言については、下記のサイトに公開されています。
http://www.canon-igs.org/fellows/yukihiro_matsuyama.html

 医療制度改革が次々と進められる中、多くの医療機関、先生方が「競争」と「共創」(コ・クリエーション)のバランスに悩まれているのではないでしょうか。地域医療連携推進法人制度は、まさに「競争」よりも「共創」を目指して、地域で医療機関を開設する複数の医療法人その他の非営利法人を参加法人とすることを必須としていますが、「競争」と「共創」の“線引き”ができていない現状では、松山氏が指摘しているようにうまく機能しない可能性が高いでしょう。

 では、何を「競争」して、何を「共創」すれば良いのでしょうか。地域医療構想的な考え方で言えば、「高度急性期」の病院同士で良いアウトカムを競い合うのは、医療の質を向上する上で重要な「競争」になります。一方、地域における役割・求められる機能が異なる医療機関同士は、地域包括ケアシステムを構築するために「共創」することが求められるはずです。

 「競争」と「共創」のバランス感覚に優れた医師が良医だと思います。

この記事の著者

川越満

川越満

1970年、神奈川県横浜市生まれ。

1994年米国大学日本校を卒業後、製薬企業向けのコンサルティングを主業務とするユート・ブレーンに所属。

コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備える「コンサナリスト」(商標登録済)として、講演活動、書籍の出版プロデュースなどで活躍中。

医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。

現在は「業界入門書の制作」と「医師とMRの相互理解促進」を使命として、役立つコンテンツを生み出しつづけている。著作は30冊以上。肩書の「コンサナリスト」とライフワークの「セルフ・ブランディング」を10年前の2004年に商標登録している。

URL:https://consunalist.jp/

この著者の最新の記事

関連記事

ページ上部へ戻る