予定調和を崩す

 コントや落語の題材に「医師と患者」が数多く出てくるのは、そのやりとりが予定調和、すなわちパターン化しているからです。JR「みどりの窓口」の職員、コンビニエンスストアや牛丼チェーン店のアルバイト店員なども、予想どおりの対応をしてくれます。コンビニで会計時にSuicaをリーダーの上で“スタンバイ”しているのにもかかわらず、「タッチお願いします」と店員に言われてイラッとしたのは、決して私だけではないはずです(笑)

 「笑い」に限らず、感情の変化は“ギャップ”(落差)や“ズレ”によって生じやすくなります。例えば、若くてイケメンの男性が恰好をつけて歩いていたらバナナの皮に足を滑らせて転ぶのと、杖を付いたおじいさんが転ぶのとでは「落差」は大きくことなります。イケメンの男性の落差は大きく、おじいさんの落差はものすごく小さい。だから、前者は笑えるけれども、後者は笑えない。逆に心配という感情が湧き上がってきますよね。

 先日、体調を悪くしてかかりつけ医を受診した際、微笑ましいやりとりに遭遇しました。

おばあちゃん「先生、わたし最近、テレビでドラマなんかをみていると、すぐに感動しちゃって涙が止まらなくなっちゃうの。どうしたらいいかしら?」

先生「ドラマを観て、感動して涙する。素敵なことじゃないですか(笑)」

 おばあちゃんの相談内容がすでに予定調和からズレていますが、それに対する先生のコメントにもやさしさがあふれていました。

 私の勤務地である東京・日本橋三越前では、元気な?おばあちゃんを毎日、たくさん見ることができます。三越新館のレストランは、平日でも行列になっており、我々サラリーマンがそこに割って入ることは不可能に思えます。そのレストランの前には本屋さんがあるのですが、客層を見込んでいるのでしょう。高齢者向けの本が揃えられています。その品揃えの中で、良い意味で予定調和を崩す本を見つけました。『「老い」の技法―アクティブ・シニアを支える便利な暮らしの道具』(浜田きよ子著)には、少し不自由な高齢者のための「できなくなった」を「できる」に変える生活グッズがたくさん紹介されています。

 なかでも、私が注目したのは「手指が不自由でもおはしで食べたい」というニーズに応えた持ちやすいおはしです。製造元のウインド社のサイトにも紹介されています。

 2015年度の介護報酬改定において、リハビリテーションでICF(International Classification of Functioning, disability and Health:国際生活機能分類)的な取り組みが評価されたように、今後は患者さん自身がやりたいことを実現させてあげる活動が、国からも、そして国民からも評価されてくるでしょう。

 我々は、できていたことができなくなると落ち込みます。しかし、医療や介護従事者がサポートすることにより、「もう一生できないまま生活していくしかない」という患者さん自身の予定(調和)を崩すことができます。今回ご紹介した一冊の本も、そのきっかけになるかもしれません。

この記事の著者

川越満

川越満

1970年、神奈川県横浜市生まれ。

1994年米国大学日本校を卒業後、製薬企業向けのコンサルティングを主業務とするユート・ブレーンに所属。

コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備える「コンサナリスト」(商標登録済)として、講演活動、書籍の出版プロデュースなどで活躍中。

医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。

現在は「業界入門書の制作」と「医師とMRの相互理解促進」を使命として、役立つコンテンツを生み出しつづけている。著作は30冊以上。肩書の「コンサナリスト」とライフワークの「セルフ・ブランディング」を10年前の2004年に商標登録している。

URL:https://consunalist.jp/

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