中川循環器内科 OSASセンター 中川真吾先生インタビュー

今回は、愛媛県松山市にある中川循環器内科の中川真吾先生にお話をお伺い致しました。

中川先生は、2003年に起きた山陽新幹線運転士の居眠り事故以前より、無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)の治療に取り組んでいらっしゃいます。男性や肥満の方に多いと思われがちなSASですが、実は痩せている方や女性にも見られ、不妊にも深く関係しているという驚きのインタビューとなりました。

現在、SASで受診されている方以外も、ぜひ自分ごととして捉えていただきたい内容となっております。

ドクターになられたきっかけについて教えてください。

医者の家庭だったということもありますが、それほど憧れていたわけではなく成り行きで医学部へ行こうとしていました。結局、トータルで三年間浪人したのですが、二浪目の時に「本当に自分の人生は医者でいいのか」と思い、理系の科目で受験できる文系大学を受けて入学しています。

その後、いろいろあり一年で大学を離れ、広島のBARで雇われマスターを数か月していた時に一念発起して再度、医学部を目指すことにしました。一浪の時には国立大学にこだわっていましたが、その時にはどうしても医学部へ行きたいという思いもあり、国立私立問わず受けていました。でも、多浪だったので二次試験で落ちることが多かったですね。

今思うと、回り道をして自分のプライドを捨てるまでに時間がかかったのだと思います。その間に、知り合いが亡くなって儚い思いもしましたし、本当にこのままでいのだろうかと考えた結果、どうしても医者になりたいと思うようになりました。

親御さんに対する反発などもあったのでしょうか。

ありましたね。今考えると独りよがりだったところもあると思います。
ただただ、学校へ勉強に行って帰ってくるという繰り返しで、高校三年間は良い思い出もないくらい勉強したのに、受験も失敗して。二浪目の時には、他に道があるのではないかと考えたこともありました。

その当時はまだ、医者というものに対してステータスを求めていたところが大きかったと思いますが、それ以外の部分に気づくまでに三年間という時間がかかりましたね。

虎の門病院へ行かれたきっかけについて教えてください。

病院実習で色々な診療科を回るわけですが、ある大学の救命救急センターへ行った時に虎の門病院の外科の先生がいらっしゃっていました。その先生は、私たちが知っているような医者のイメージとはかけ離れていたこともあり、非常に印象に残ったのです。

また、ちょうどその時に、虎の門病院で高校の同級生が手術をし、お見舞いで訪れていたこともあって興味がわき、受験することにしました。

ローテートではどのような診療科をまわったのでしょうか。

麻酔科ではありましたが、一年半は内科と呼吸器科、循環器科、生理学検査室を回りました。心臓のエコーなどをやりたかったので生理学検査室へ行ったのですが、病院内では比較的楽なローテートを選んだのではないかと言われたりしましたね。そこでは、色々なことを学びましたが、その中でも脳波の検査を経験したことは最終的に、SASの診断に役立っています。

また、私はその頃、体重が140kgほどあったのですが、呼吸器科をまわっている時に虎の門病院で睡眠のスペシャリストと言われている先生に「呼吸が止まっているはずだから、これをつけてみろ」と検査キッドを渡されたということがありました。そのおかげで、無呼吸症候群がどのような病気であるか知ることができましたし、理解した上で生理学検査室へ行き、脳波の勉強ができたことはかなり有意義でしたね。

さらには、最後に回った救命救急でHCUやCCUの患者さんを診たわけですが、そこにいる患者さんは皆、無呼吸ばかりだということにも気づ区ことができました。

虎の門病院には、どのくらいの期間いらっしゃったのでしょうか。

三年ですね。そのあとは、他院の救命救急にいたこともあり将来的には麻酔科医を目指していたのですが、突然、親が倒れたから帰ってこいという連絡があったのです。

実際に帰ると親戚の病院に入院していましたので、これは全てを捨てて帰ってこなくてはならないと意を決して戻ってきたわけですが、帰ってくると元気に働いていまして。その時は、騙されたなと思いましたね。

愛媛に戻られてからは、どのように過ごされたのでしょうか。

騙されたような形で家に帰ったわけですが、麻酔科医なので今後、研修医をやり直すか大学の医局に入るかの二択という話になりました。どちらも嫌でしたので、麻酔をしながら内科も教えてくれる病院を探して、こちらにたどり着いたのです。

内科を勉強し始めてすぐの頃は、外来は担当せず、健康診断に携わることが多かったのですが、この時に意外と無呼吸症候群の方が多いことに気づきました。顎の形態や大きさでおおよそ検討がつきますが、そのころはまだ2003年に起こったJR西日本、山陽新幹線運転士の居眠り事故の前だったので、無呼吸症候群自体あまり知られていないわけです。そのため、患者さんを見つけてもどこ送ればいいのか悩んでいる時期がありました。

ちょうどこの頃、かつて虎の門病院で呼吸器科の部長をされていた先生が来られる機会があったので相談したところ、「全て教えたはずだから、自分でやってみては」言われまして。その一言が始まりで、無呼吸症候群に取り組むようになりました。

今いる病院は家庭医療、プライマリケアがメインのため診療の幅が広いのですが、睡眠時無呼吸症候群であるSASをされていらっしゃる先生は誰もいなかったので、立ち上げてみようと一から勉強し直し、虎の門病院にも勉強しに行きました。

こちらの病院に来られて、印象に残っていることはありますか?

ここは小児科がメインの病院です。2次救急を受け入れており、輪番制なので一週間に一回程度、担当が回ってきます。私は元々、高度救命救急センターにいたので、2次救急自体はお手の物だと思っていたのですが、来る患者さんは全て小児科であり、そこで目が覚めるようなものを見させていただきました。私が培って来た救命の実力では太刀打ちできない部分もあり、良い意味で勉強させてもらいましたね。

今となっては、麻酔もかけることができて持続式陽圧呼吸療法(CPAP:Continuous Positive Airway Pressure)というにも取り組めるという恵まれた環境ですが、来た当初は、いつ辞めるかわからない人にお金はかけられないとよく言われましたね。現在では、外来を担当している人の二番目くらい古い医者になっていますけれども。

無呼吸症候群は太っている人だけというイメージかと思いますが、私たちが虎の門病院で行なっていた睡眠医療というのは10年先をいっている医療でしたので、痩せている人でも女性でもSASになるという意味では、全く別の次元だったと思います。逆にいうと、医者の常識からは少しかけ離れてしまったところがあるのかもしれませんが。

愛媛と東京の医療環境の違いは感じられていますか?

とても感じています。SASに関しては、元々、虎の門病院自体が10年、20年先を進んでいましたから。今、ようやく私たちの感覚に追いついて来ているという感覚はあります。ただ、いまだに月に一度は虎の門病院へ出向き、キャッチアップしないと不安にはなりますね。

また、帰って来て最初に驚いたのは、救命救急に自殺患者さんが来た時です。私がかつて所属していた救命救急では、もう一度自殺しないために精神科を受診させるのですが、こちらではそのようなことはしません。そこに大きなギャップを感じました。

無呼吸症候群について詳しく教えてください。

新幹線の事故は2003年2月26日に起きたのですが、あれを見た瞬間、私たち専門家は絶対に無呼吸症候群だろうという直感がありました。あの出来事によって、世の中に認識が変わりましたし、私たちの起点でもありました。

そのころは、SASのファーストチョイスが手術だということで実施している病院が多々ありましたが、今となってはだいぶ変わって、ファーストチョイスはCPAPだと認識されていらっしゃるドクターが増えましたね。

無呼吸症候群に気付きやすいのはベッドパートナーです。ご自身が症状としてわかりやすいのは昼間の眠気であり、頻繁に見られるようなな場合はSASの疑いがあります。そのほか、主な症状として頭痛があげられます。

また、夜間頻尿もSASに関連しています。私のところへきた患者さんには必ず「夜中にトイレへ何回行きますか」と聞くようにしています。

寝ている姿勢では、首が締まるので息をしようと努力をします。胸腔内圧は元々5気圧くらいです。首を絞めて息を吸おうとした場合、一過性ではありますが、100気圧くらいまで上がるのです。

そして、次に何が起こるかというと、心臓に返ってくる静脈韓流量が増えます。すると、心臓が大きくなるので利尿ホルモンが放出され、おしっこを出して減らそうとするわけです。

SASは、逆流性食道炎にも影響を及ぼしています。胸腔内に心臓や食道があるのですが、引っ張られることで胃酸が逆流するという仕組みです。私は内視鏡も行なっているので、患者さん全てに胃カメラをして調べてみると、4割程度は逆流性食道炎を発症していることがわかりました。

そのほか、SASでは膵がん、皮膚がん、腎臓がんが多いと言われています。大腸がんはそれほどでもありませんが、私は大腸ポリープが異常に多いと感じています。

SASと不妊の関係について教えてください。

SASはEDに関連していると言われています。
SASの患者さんは、成人男性の25%、女性では13%であり、男性だと4人に1人、女性では5人に1人が発症するというデータがあります。しかし、女性の場合は病院に来られるケースが少ないので、潜在的にはもっと多いと思います。

女性がSASになる場合、最もよく見られるのは閉経後です。つまり、エストロゲンが減った状態であり、上半身が太りやすくなってしまうのが原因です。さらに、女性ホルモンのプロゲステロンには拡張作用がありますので、それが減少することでSASの患者さんが当然に増えてくることになります。

妊娠で子癇、いわゆる痙攣という症状があります。これは一過性の低酸素血症が原因だと思うのですが、どのような時に起こっているのか言及したデータはおそらくないと思います。

女性と睡眠について調べてみると、レム睡眠の時に無呼吸が重篤化している患者さんが異常に多いことがわかります。レム睡眠というのは、1時間半に1回訪れますので、トータルで3時間しか寝なければ、レム睡眠が1度しかないので無呼吸の質自体は軽症だという現象が起こります。

重篤の場合は低酸素血症を起こすことも多く、実は、SASの患者さんは流産の割合が高いのです。重篤な流産を繰り返す、子供の脳になんらかの疾患がある状態で生まれてくるケースも多いですね。

これらのことから、睡眠障害によって着床障害や流産、妊娠高血圧症や糖尿病が引き起こされるのではないかと考えています。また、胎盤の形成不全を起こす可能性もありますので、特に、着床まではするけれども流産してしまう患者さんにSASの検査をして欲しいですね。

逆流性食道炎の患者さんにCPAPを使うと4時間、糖尿病の場合は7時間半から8時間で改善するというデータがありますが、8時間ほど使用することでレム睡眠にも十分な効果があり、このことから女性のレム睡眠と妊娠後の糖尿病が関連しているのではないかと推察されます。

認知症の前段階を抑えることもできますので、認知症予防にもなりますよね。

SASというのは、いびきや眠くなる病気だと捉えられていますが、私たちは症状をわかってもらうために色々な研究に取り組んでいます。

先生はかなりスポーツに造詣が深いとお見受けしますが、それはなぜでしょうか。

スポーツは本当に好きですね。一番好きなのはラグビーですが、サッカーも好きです。好きになるとこだわりが色々と出てきますよね。

ラグビーは、自分でやってもすごく面白かったですね。高校や地方で行われるラグビーの試合にはチームドクターという形で参加させてもらうこともあります。

愛媛における、先生の今後のビジョンについて教えてください。

今は、遠隔医療に最も興味を持っています。ただし、現在行われている遠隔医療は後ろ向きだと感じているので、もっと積極的に取り組んでもいいと感じています。

例えば、地球の裏側から飛んできたデータをもとに診察することができれば、へき地医療や田舎で道が寸断されているような場合でも使うことができるのではないでしょうか。さらに、対面診療も極端に減らしてあげることで、よりアグレッシブに実施することができると思います。

また、遠隔診療は安否確認にもなります。熊本で地震が起きた時にそう感じたのですが、そのような時はやはり、私たちもホットな患者さんを優先に動いてしまいます。結果的に、CPAPの患者さんは後回しになってしまうのですが、それでも患者さんが使ってくれているデータがきますので、安否確認にもなりました。

それをもっと有意義な形にしたいですし、極端な話をすると私自身は東京の患者さんを診たいと思っています。ただし、東京の患者さんを愛媛で診るとこちらの保険が破綻してしまうので、東京に病院を作り、月に何回か訪れながら遠隔診療も取り入れる形がいいのかなと考えています。

離島やへき地医療、災害の患者さんに対して、より積極的に遠隔診療を取り入れていくべきですし、今のような対面医療の補完としてだけではない医療にしていくことが大切だと思っています。

いかがでしたでしょうか。
睡眠時無呼吸症候群が意外と身近なもので、様々な症状・病気とつながっているということがわかり、目から鱗のインタビューとなりました。

不妊に関しても、素晴らしいお話を聞くことができ今後、不妊治療の分野との関連性が明らかになって欲しいと切に願っております。

中川先生、お忙しい中お時間を頂きありがとうございました。この場を借りて、厚く御礼申し上げます。

【名医情報詳細】

クリニック名 中川循環器内科 OSASセンター
住所 〒799-2460
愛媛県松山市苞木8−1
電話番号 089-994-1004
営業時間 午前 9:00〜12:30
午後 14:00〜18:00
ホームページ http://n-osascenter.milkcafe.jp/

【地図情報】

大きい地図で見る

この記事の著者

池上文尋

池上文尋

バブル期の外資系製薬企業に入社、3年間MR(医薬情報担当者)として勤務後、医療機関側の内部に興味を持ち、青森の医療法人事務長として2年勤務。その後、再びMRへ復帰。外資系企業を2社、合計9年を京都担当のMRとして勤務。
MR時代に趣味で立ち上げたMR-NETが徐々に広がりを見せ、MRに対しての情報発信やサポートに目覚める。勤務先の合併を機にMRを退職し、株式会社メディエンスの代表となる。

現在、オールアバウトジャパン「不妊症」ガイド、妊娠力向上委員会企画運営、MR-NET企画運営、医療機関広報コンサルティング、とMR時代に培った医療知識とITスキルを活用し、医療における分野で幅広く事業を展開中。

池上@自己紹介
http://www.medience.info/profile.html#2
オールアバウト不妊症治療ガイド http://allabout.co.jp/gm/gt/1831/
MR-NET http://mr-net.org/
株式会社メディエンス http://www.medience.info/

この著者の最新の記事

おすすめ記事

登録されている記事はございません。

ページ上部へ戻る